15. 舌がん - 再入院 - 術後の抗がん剤と放射線と私(3) 2016.4
もう無理!心が折れた
4月中旬、アンサー注射やセファランチン服用にも関わらず、白血球値は回復しない。しかしドクターによると、化学治療を経験した後、ずっと白血球値が回復せず標準に達することがなくなったかたはいるが、問題ないです、日常生活を送る支障にはなりません、とのこと。
素人考えでは、免疫力が落ちることは、さらなる体調不良などの負のスパイラルに陥るような気がして非常に不安に感じる。しかしドクターは、"外科の視点ではですね..." という枕言葉をおいて語るため、いまいち話がかみ合わない。
そして照射側の下の歯茎の何箇所かが非常に痛く、食事が苦痛になる。痛いところを鏡でみても、素人が見て取れる変わった様子はない。放射線科のドクターによると、金属のつめものが放射線の乱反射を起こし、そうした冠がある歯では歯茎のダメージが大きくなることがあるとのこと。
また、照射側の唇や頬の裏に白い突起のようなものがいくつかできて、非常に痛い。口腔外科ドクターによると、位置的に唾液腺があるところが放射線の影響で詰まってしまい、こうした症状になるとのこと。私が事前に想像していた口内炎といった感じ。(私はもともと口内炎らしい口内炎を経験したことがなく、事前説明で副作用・有害事象で口内炎は必発と言われていても、痛みの程度・感覚が、実はよくわからなかった。)
歯茎の件は、看護師が口腔外科にとりついでくれ、数日後、口腔外科ドクターに歯茎に薬を注射器のような道具で入れてもらい、やっと楽になった。他の口内炎は、麻酔薬が入ったうがい薬と痛み止めカロナール増量により、コントロールを図る。食事も、手術明け以来のミキサー食に。
痛みとは別に、抗がん剤が初回だけにも関わらず、増すばかりの全身の倦怠感。放射線治療は午前中に 20分程度で終わってしまい、時間はあるが、口の中が痛いのと体が重いのとで、病室で横になることしかできない。廃人になったよう。思いつくこと全てが、ネガティブになってしまう...。
気は病から
...どうせ週末に家に戻れても横になっているだけ...病院と変わらない...(そこで病院の週末となるが...週末は治療も無く、ぼんやり)...どうせもう顕微鏡レベルでは体中に転移している...抗がん剤を入れてしまったので白血球など免疫も一生回復しない...であれば何をやっても無駄...放射線も効いているのかわからない...骨髄炎になり下顎骨が壊死するリスク...しかし口の中は痛い...しかも気持ち悪い...何も食べたくない...食べて体重減らしてはいけないのに食べれない...外は晴れているのに何もできない...こんな状態は今時点ですでに死んでいるようだ...
こんな感じで暗い気持ちのまま1日が終わってしまう。げに恐ろしきは、化学放射線治療。認知症のがん患者さんのほうが術後治療の完遂率が高く、結果として、再発率が低かった、という何かで読んだエピソードに納得。悩んだり考えること、すなわち生きること自体が、治療の挫折すなわち生存リスクを下げてしまうことがあるという、がんの "厄介さ"。
「『病は気から』というが、『気は病から』が正しい」というコメントをどなたかの闘病ブログで拝見した(すみません、どなたのブログか思い出せない)。まったくその通り。体の調子が悪いにも関わらず、気持ちだけでも健全に保つということは、実に難しい。
だからこそ、難病とたたかっている人、くじけない人が、闘病しているただその1点でもって、とても凄いことだということを初めて理解する。(それまでは、病気であれば治そうと思うことは当然、と思ってしまっていました...こうした発見は Cancer Gift と思います。)
治療の中止を申し入れる
今の治療を止めたいと妻に話す。治療が辛い。もう頑張りたくない。いままで無理して頑張ったからこんな病気になったんだ、もう頑張りたくない、と思わず泣いてしまう。妻も言葉がない。妻が手を握ってくれる。長い沈黙の後、よく先生と相談してほしいとのこと。
ドクターの先生がたに、今の治療を中止したいと伝える。主治医は、"止めることのメリットとデメリットとを比べると、デメリットが大きいことは知ってほしい。それでも、あくまで御本人の意思次第。御本人次第ですので、また治療を再開したい、となれば教えて" とのこと。
ご年配の患者さんの中止が多い治療方法と聞いていたが、同様の申し出をこれまで数多く経験されているのか。普段通りの淡々とした様子。それでも、"治療しないとおっしゃったからといって追い出すことはありません、慌てて退院されなくて大丈夫ですから..." と強調して頂いたのは、精神的にとても助かりました。
日曜の晩に中止を申し入れたが、今週のどこか好きなときの退院で構わない、別に金曜日になっても構わない、とのこと。別のドクターからも、嫌がる本人に薬を投与したり無理やり体を拘束して放射線治療をさせる訳にはいきませんから、今週いっぱい、よく考えてください、とのお話を頂く。
看護師の方々の反応
① "...はい...ええ...そうですか..."
基本は相槌をうつだけで、ひたすら傾聴。残念な表情を隠さないかたが多く、患者さんの気持ちに無理強いはできないという諦め感がこちらにも伝わる。わかってもらえたという安心感はある。
しかし、本当にその判断でよいかどうかは、継続することでも止めることでも、いずれにせよ、この段階ではわからない。このため、後に引き返せない感、どんより感、は強まった感もある。
② "術後の化学放射線は、根治・完治が期待できて、しかも、それに耐える体力がある患者さんにしかドクターも勧めないんですよね...。抗がん剤は今後の血液の状態次第ですが、今できる放射線まで止めてしまったら、もったいないですよ..."
後で振り返ると、かなり説得的な論理をもった、前向きな良いコメントと感じる。しかし、そのとき既に "気持ちが切れ"、"平常の思考ができない" 当人には、それほど響かない...。
③ "心理士のかたと面談してみますか?"
いまの自分に何ができるかを考えて頂いたことが、よく伝わる。面談は断ったものの、真の問題は気持ちにあるとわかってもらえた。心の問題だとわかってもらえたことは、嬉しい。
若手のなかでも普段は底抜けに明るいイニシャル "I" さん、じっと話をきき、さっと手を差し伸べるかのような申し出・ナイス判断に、今更の拍手!
ドクター熱く語る
さらに別のドクター(本章では3名目)からは、いまの治療で何が懸念か教えてくださいとインタビューされる。放射線治療の晩期障害、下顎骨壊死への懸念、化学療法の白血球値が回復しない、顕微鏡レベルでは転移が進み何をやっても今どのみち手遅れではないかという諦め...思いつくまま、一方的にいろいろ話してしまう。黙って聞くドクター。
翌朝、皮弁をとった太腿の傷口の化膿(白血球値の低下と連動し傷がじくじくする)の処置をして頂きながら、ドクターがぽつりぽつりとお話をされる。徐々に、普段は見せない、思いのほか熱い語り口となり、私のほうが驚いてしまう。
"...晩期障害は口腔ケアに注意して抜歯を避ければ、避けられるリスクです...でも、再発リスクを下げるには、他の治療法はないんです...MWさんは、今できる治療があるんですよ...どんなことでも、何かをする、ということは難しいことなんです...何かをすることと、何かをしないこととが選択肢にあると、何かをするということは、いつも難しいことなんです。"
"MWさんの場合、リンパ節の被膜外浸潤があったわけですから、ここで中断すると、リンパ行性といいますが、リンパの流れを通じた再発リスクが、ものすごく高くなります。つまり再発しても、医者からみて、全然おかしくないんですよ。MWさんは、手術では取り切った、といえる内容だったんですよ...だから、この術後の治療をこのまま最後まで行えば、まだまだ完治が狙える状態なんです..."
術後治療の再開を誓う
自分はまだ完治を狙える...難しいことを自分はやろうとしている...難しいことだから辛いこともある...辛いから止めようと思ったのは、自分だけの話だと思ったから...。自分が辛いと思えば、自分のことであれば、自分の気持ち次第で、止めることができると思っていた。
手術の入院の頃から変えてない、ベッドから見えるところにたててある家族の写真をみる。そう、あまりに体が辛いばっかりに、自分だけのためではなく、家族のためにも頑張るという想いが薄れてしまった。元気になることが、子どもたちのためにもなると信じたい。子どもらともっと一緒に遊んだり時間を過ごし、働く自分の姿をみせたい。それに、そもそも難しいことに挑戦することが、自分らしいではないか。
2日間、勝手に治療を休んでしまったが、水曜から治療を再開。再開を告げた際に目を細めガッツポーズしてくださったドクター、ぱっと顔が明るくなったドクター、お騒がせしましたといって軽く頭を下げたら、静かに、はい...と一言だけ仰ったドクター...先生方は、みな命の恩人です!
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